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東京地方裁判所 平成10年(ワ)13904号 判決

原告 綜合ゴルフサービス株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 堀廣士

同 山岸宏彰

被告 株式会社有賀園ゴルフサービス

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 戸枝太幹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、別紙「ゴルフ会員権」目録〈省略〉のゴルフ会員権に係る会員券の引渡及び日東興業株式会社に対する同会員権の名義変更手続と引換に、一八五万円を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、ゴルフ会員権を売却した原告が被告に売買代金を請求したのに対し、被告がゴルフ場の経営会社が和議申請をして名義書換が停止されたため、売買契約は原被告が加入する事業協同組合の組合間の取引約款に基づいて解除されたなどと主張して争った事案である。

二  争いがない事実など判断の基礎となる事実

1  原告と被告とは、いずれもゴルフ会員権の売買等を業とする株式会社である。

2  原告(担当従業員C)は、平成九年一二月一九日、被告(担当従業員D)に対し、別紙「ゴルフ会員権」目録〈省略〉のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。なお、本件会員権に係るゴルフクラブ保証金預り証書を「本件会員券」という。)を原告が被告に代金一八五万円で売却するとの契約(この売買契約を以下「本件契約」という。)をした。

なお、本件会員券には、その会員券がノーザンカントリークラブの個人正会員の資格を証するものであり、本件会員券とともにその資格を他に譲渡することができ、譲受人は理事会の承認を受けて本件会員券に承認の記載を受けることにより個人正会員の資格を得ることが記載されている(甲第一号証の一、二)。

3(一)  Cは、同年一二月二四日、Dに、本件会員券をまもなく入手するので、入手次第至急便タイムサービスで送るから、同月二五日午前一〇時には被告に届くと連絡した。

(二)  Cは、同月二五日午後二時頃、Dに対し、本件会員券を入手したことを連絡したところ、Dから、宅急便のタイムサービスで送るように指示されたので、すぐにヤマト運輸により被告宛てに本件会員券を送った。

(三)  他方、本件会員券を発行し、本件会員権に係るゴルフ場を経営する日東興業株式会社(以下「訴外会社」という。)は、同月二五日、東京地方裁判所に対し、和議申請をした。

(四)  訴外会社の和議申請の情報に接したDは、同月二五日午後六時頃、Cに対し、電話で、訴外会社が和議申請をしたので、本件会員券を到着次第返送すると一方的に連絡した。

(五)  本件会員券は、同月二六日、被告に到達したが、直ちに被告により返送手続がされ、同月二七日、原告に到達した。

その後、原告から被告に対し本件会員券の差替物件として何らかのゴルフ会員権の提供がされたことはなかった。

(六)  訴外会社は、和議申請をした日の翌日である同月二六日から当分の間会員の名義書替停止措置を講じた。

もっとも、同月二五日以前に名義書替申請又は債権譲渡通知があり、かつ、平成一〇年二月四日までに必要書類の提出がされた事例については、訴外会社は書替に応じた。

その後、訴外会社は、平成一一年三月一〇日、東京地方裁判所において、一般債権者について一八パーセントを一三年間に分割払し、そのうち当初の三パーセントが期限内に支払われたときはその余の八二パーセントを免除するなどの和議条件により和議の認可決定を受け、同年五月一八日東京高等裁判所においてその決定に対する抗告棄却の決定を受けて、和議認可決定は確定した。

そして、その後同年七月一日に至り、ようやく会員権の名義書替が再開された。〈証拠省略〉

4  原告、被告は、関東ゴルフ会員権取引業協同組合に加入しており、同組合員間のゴルフ会員権の売買は、同組合により定められ、平成元年四月一日から実施されている「組合員間に於ける取引約款」(以下単に「約款」という。)に基づいて行われるものとされ、本件会員権の売買にも約款が適用される。

約款一〇条には、「① 売主は、何らの瑕疵もなく、また他人の権利によって制限をうけない完全な会員権を引渡さなければならない。」、「② 売主は、会員権の引渡にあたり、名義書換必要書類全部(現名義人の捺印を要しない書類を含む)(中略)を買主に交付しなければならない。」、「③ 会員権の引渡日以前に第一項の瑕疵又は他人の権利による制限が発生していたときには、売主は、買主に対し請求のあった日から七日以内に差替物件を引渡さなければならない。」、「④ 前項の場合、売主が差替物件を引渡すことができないときは、買主は、契約を解除して支払済みの代金の返還と損害の賠償を売主に請求することができる。」との規定がある。

また、約款一五条には、「① 会員権の引渡時から六〇日以内に当該会員権に仮差押、仮処分、保全差押、差押、滞納処分、破産宣告決定、会社更生手続開始決定等名義書換障害事由が発生したときは、売主がその費用と責任において解決するものとし、売主は、買主に対し請求のあった日から七日以内に差替物件を引渡さなければならない。この場合、売主が差替物件を引渡すことができないときは、第一〇条④の定めに従う。」との定めがある。

なお、約款は、平成八年四月一日改正され(以下この改正後の約款を特に区別していう場合には「改正後約款」という。)、改正後は、約款一五条①にいう名義書換障害事由の発生時点が「会員権の引渡日の翌日から起算して六〇日以内」と、一五条①及び一〇条③にいう差替物件の引渡義務の期限が「請求のあった日の翌日から起算して七日以内」と変更された(甲第九号証)。

5  被告は、平成一〇年七月二二日までに原告に到達した同月一七日付の本件答弁書により、被告は第三者に売却するため本件会員権を購入したのであり、直ちに被告又は第三者に名義書換がされるべきことが売買の前提であったのに、訴外会社の和議申請、和議開始決定のため名義書換が不可能となり、その後、名義書換の開始時期は不明で、開始されるとしてもそれまでの間長期間を要すると予測されるから、本件契約の本来の目的を達成することができないことを理由に、本件契約を解除するとの意思表示をした。

6  被告は、平成一〇年一二月一一日開かれた本件弁論準備手続において、原告に対し、訴外会社が平成九年一二月二五日和議申請をしたため、名義書換障害事由が発生し、原告から受領した本件会員権に係る書類一式を返送したが、その後、差替物件の提示がないことを理由に、約款一五条により本件契約を解除するとの意思表示をした。

7  被告は、平成一一年三月一〇日開かれた本件弁論準備手続において、原告に対し、訴外会社が平成九年一二月二五日和議申請をし、同月二六日午前零時から名義書換が停止されたから、本件会員権は被告が引渡を受けた同月二六日午後の時点では既に名義書換不可能であり、瑕疵があったことを理由に、約款一〇条により本件契約を解除するとの意思表示をした。

三  争点

1  本件会員権の売買に当たり、被告が書類一式の受領確認の上で売買の成立を確定するとの合意があったか。

(被告の主張)

原被告間において、本件会員権の売買については、被告が書類一式を受領し、確認した上で売買の成立を確定するとの合意がされていた。ところが、訴外会社が和議申請をしたことから、被告は、書類一式を受領したものの、書類の確認をすることなく原告に返還したから、売買は成立していない。

(原告の主張)

原告と被告はいずれも専門のゴルフ会員券業者であり、業者間取引は電話やファックスによる契約の申込とそれに対する承諾によって成立するものであり、書類一式を確認の上承諾するような慣行もない。

2  被告は第三者に売却するために本件会員権を購入したことを理由に本件契約を解除することができるか。

(被告の主張)

被告が原告から本件会員権を購入したのは、第三者に売却するためであり、直ちに被告又は第三者に名義書換がされるべきことが当然の前提であり、原告もこの事実を承知していた。

ところが、被告は、平成九年一二月二六日、原告から本件会員権に係る書類一式を受領したが、本件会員券を発行し、本件会員権に係るゴルフ場の経営主体である訴外会社が同月二五日東京地方裁判所に和議申請をしたため名義書換が不可能となった。その後、訴外会社について和議が開始されたものの名義書換の開始時期は不明で、開始されるとしてもそれまでの間長期間を要すると予測されるため、本件契約の本来の目的を達成することができないことは明らかであるから、被告は、本件契約を解除することができる。

なお、危険負担については、後記5のとおり、債務者主義が適用されるべきであり、原告の主張は失当である。

(原告の主張)

訴外会社は和議申請後もゴルフ会員券業者からの名義書換の申請に応じていたため、名義書替が不可能となったとはいえない。また、本件において名義書換えが不可能となったとしても、それは本件契約の対象が特定した後のことであり、危険負担の問題となり、特定物の物権の移転に関する債権者主義により被告が危険を負担すべきものであり、被告から解除することはできない。

3  被告は、約款一〇条により、本件契約を解除することができるか。

(被告の主張)

訴外会社が和議申請をし、同年一二月二六日午前零時から名義書換が停止されたため、本件会員権は、被告が原告からの引渡を受けた同月二六日午後の時点では既に名義書換不可能であり、瑕疵があったから、被告は、約款一〇条により本件契約を解除することができる。

(原告の主張)

本件において約款一〇条の適用はあり得ない。すなわち、同条①の「他人の権利によって制限を受けない」との文言は、売買の目的たるゴルフ場会員権が質権、譲渡担保権等の目的となっていないことを指すことは明らかであり、「瑕疵」も売買の目的たるゴルフ会員権を対象としていると考えるしかない。また、同条③は差替物件の引渡義務を課しており、同一ゴルフ場の会員権で瑕疵等のないものを引き渡すことを意味している。ゴルフ場を経営する会社が和議申請をして、名義書換を停止した場合は、差替物件の引渡ということを考える余地はない。

4  被告は、約款一五条により、本件契約を解除することができるか。

(被告の主張)

訴外会社が和議申請をしたため、名義書換障害事由が発生したが、被告は、同年一二月二六日、原告から受領した本件会員権に係る書類一式を返送したままで、その後、差替物件の提示はないから、被告は、約款一五条により本件契約を解除することができる。

(原告の主張)

本件において約款一五条の適用はあり得ない。すなわち、同条の名義書換障害事由は当該会員権に発生したときとあり、現名義人が和議申請したのでない場合は、これに含まれないと解される。また、同条は、売主に名義書換障害事由を解決する義務を課し、また差替物件の引渡義務を課しており、本件会員権に発生した訴外会社の和議申請の場合を同条に読み込むことは無理である。

5  原告は、民法五三六条の定める危険負担における債務者主義により売買代金請求権を失うか。

(被告の主張)

本件ゴルフ会員権は、預託金制のゴルフクラブの会員権であり、プレー権、預託金返還請求権、会費納入義務が一体となった包括的債権債務関係であり、特定物に関する物権の設定又は移転を目的する双務契約ではない。ところが、本件契約の直後に、会員権の名義書替は停止され、その後、預託金返還請求権は、実に八二パーセント免除、一八パーセントを一〇年間据置、一〇年間分割払いという大幅な制限を受けることとなったのであるから、本件契約は、当事者双方の責に期すべからざる事由により売主の債務が履行することができなくなったということができ、民法五三六条一項により、被告の代金支払債務は消滅した。

(原告の主張)

訴外会社は、和議認可決定の確定とともに、平成一一年七月一日以降名義書換手続を開始しており、現在本件会員権の名義書換は可能となっており、本件契約上の売主の債務は履行可能である。

本件契約が履行不能となったとしても、本件契約の対象は、原告が被告に本件会員権に係る一式書類を送付したときに特定されており、履行不能はその後に生じたのであるから、本件には、民法五三四条が適用されるべきであり、被告の代金支払債務は残されているというべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1について

被告は、原被告間において本件会員権の売買に関し、被告が書類一式を受領し、確認した上で売買の成立を確定するとの合意がされていたところ、被告は、書類一式を受領した書類の確認をすることなく原告に返還したから、売買は成立していないと主張する。

しかしながら、右のような合意のあったことを示す証拠は全くない。

かえって、被告の主張に従う限り、名義書換に要する書類すべての送付を受けてなお被告において一方的に売買の成否を確定できるとの合意があったことになるが、本件においては、被告が取引上圧倒的な優位に立っていたことなどの特別な事情について何らの主張立証はないから、通常このような合意はあり得ないことというべきである。

二  争点2について

被告は、被告が本件会員権を購入したのは第三者に転売するためであり、直ちに被告又は第三者に名義書換がされるべきことが当然の前提とされ、原告もこのことを知っていたのに、訴外会社の和議申請により名義書換が不可能となり、本件契約の本来の目的を達成することができなくなったから、被告は本件契約を解除することができると主張する。

しかしながら、右の主張が解除権の留保の合意をいうのであれば、そのような合意のあったことを示す証拠はない。

また、売買契約締結後に転売することが困難となる事情が生じたからといって、危険負担の法理の適用により買主の債務が消滅するかどうかの議論は格別、そのような事情が生じたことだけから特約もないのに買主が売買契約を解除することができるというべき根拠はなく、被告の主張は失当というほかはない。

三  争点3について

1  被告は、平成九年一二月二六日午前零時から名義書換が停止されたため、本件会員権は、被告が原告からの引渡を受けた同月二六日午後の時点では既に名義書換不可能であり、瑕疵があったから、被告は、約款一〇条により本件契約を解除することができると主張する。

2  そして、前記第二の二の認定事実によれば、原被告間に平成九年一二月一九日本件会員権の売買契約である本件契約が締結され、本件会員券が同月二六日に被告の下に送付されたが、本件会員権の名義書換は、同日の時点では本件会員券発行会社である訴外会社の和議申請に伴い停止されており、その名義書換停止の措置は、被告が約款一〇条等に基づいて本件契約の解除の意思表示をした各時期まで続いており、その時期には名義書換がいつ再開されるは不明であったことが明らかである。

3  甲第九、第一〇号証と前記第二の二4の認定事実を総合すれば、関東ゴルフ会員権取引業協同組合は、昭和四八年二月八日に中小企業等協同組合法に則りゴルフ会員権の取引業者により設立された事業協同組合であるが、同協同組合の構成組合員であるゴルフ会員権取引業者間で取引をめぐって様々な態様のもめ事があったことから、昭和六三年頃から同協同組合において取引標準として約款を作成する作業が始まり、策定された約款が平成元年四月一日から実施され、平成八年四月一日に改正されて改正後約款となったが、その改正時には理事会で承認決議されただけでなく、同協同組合の総会決議によっても承認されたこと、約款は、正式名称を「組合員間に於ける取引約款」といい、その一条には「この約款は、関東ゴルフ会員権取引業協同組合取引約款と称する。」との規定、二条に「この約款は、組合員間取引における公正な取引基準を確立するとともに、ゴルフ会員権の流通を円滑ならしめることを目的とする。」との規定を置き、本件売買に適用されるべき改正後約款(以下において単に「約款」というときは、この改正後約款を指す。)には、一〇条に「① 売主は、何らの瑕疵もなく、また他人の権利によって制限をうけない完全な会員権を引渡さなければならない。② 売主は、会員権の引渡にあたり、名義書換必要書類全部(現名義人の捺印を要しない書類を含む)を買主に交付しなければならない。③ 会員権の引渡日以前に①の瑕疵又は他人の権利による制限が発生していたときには、売主は、買主に対し請求のあった日の翌日から起算して七日以内に差替物件を引渡さなければならない。④ 前項の場合、売主が差替物件を引渡すことができないときは、買主は、契約を解除して支払済みの代金の返還と損害の賠償を売主に請求することができる。」との条項があることが認められる。

4  前記3と前記第二の二の認定事実の下で考えてみると、約款は、ゴルフ会員権取引業者の間の取引基準を定めるもので、原被告間の本件契約にも適用されるが、会員権の売買契約の流れを、その契約成立、会員権に係る保証金預り証書のほか会員権の名義書換に必要とされる書類を引き渡すことを意味する「会員権の引渡」、名義書換の三段階に分けて整理し、売主と買主との法律関係を、契約成立後「会員権の引渡」までは一〇条において、「会員権の引渡」の後は一五条において、それぞれ規律していることが明らかである。

そして、約款一〇条①は、「売主は、何らの瑕疵もなく、また他人の権利によって制限をうけない完全な会員権を引渡さなければならない。」と定め、売主に対し、後段として他人の権利によって制限を受けないだけでなく、前段として瑕疵のない会員権の引渡を求めている。ここで、前段の「瑕疵」という語には「何らの」との修飾句が付されて、特に限定がないこと、一般に「瑕疵」という文言は法律用語以外としては使用されることの少ない語であることなどから判断すると、ここでの「瑕疵」を例えば民法五七〇条が定める瑕疵担保責任の場合の「瑕疵」と別異に解する理由はなく、「会員権の引渡」の対象となる「完全な会員権」であるためには、他人の権利によって制限を受ける場合など権利の瑕疵がないばかりでなく、その交換価値又は使用価値が不十分でないといういわば物の瑕疵もないことをも要求されていると解するのが相当である。

本件会員権は、訴外会社の和議申請に伴い平成九年一二月二六日に当分の間名義書換不能状態となったことにより、交換価値、使用価値の十全さを失ったのであるから、同日の時点で約款一〇条①所定の「完全な会員権」でなくなったというしかなく、売主である原告は、同条①の義務を履行できなくなったのであるから、本件会員権については、同条④が適用されることとなったというべきである(なお、本件において同条③の適用が問題とならないことは、後述する。)。

5  原告は、約款一〇条①後段の「他人の権利によって制限をうけない」との文言との対比から前段の「瑕疵」も売買の目的のゴルフ会員権を対象とする権利の瑕疵などに限定されるとの趣旨の主張をしているが、「何らの瑕疵もなく」という文言が「他人の権利によって制限をうけない」という文言より先に置かれており、さらにその間に「また」という語が存在している文理に照らしても、原告の主張は失当というほかはない。

また、原告は、約款一〇条③は差替物件の引渡義務を課しており、同一ゴルフ場の会員権で瑕疵等のないものを引き渡すことを意味しているのに、ゴルフ場経営会社が和議申請をして名義書換を停止したときは差替物件の引渡ということを考える余地はないから、本件に同条の適用はあり得ないと主張する。

しかしながら、同条③は同条①に反する場合の効果の一つを定めるにすぎず、同条①に定められた引渡義務の要件を同条③の効果があり得る場合に限るべき理由はない。すなわち、同条③は、瑕疵のない会員権を「引渡」することができる場合にその「引渡」義務を定めたにとどまると解される。そして、同条④の「前項の場合」とは、③の「会員権の引渡以前に①の瑕疵又は他人の権利による制限が発生していたとき」の意味に解するのが相当であり、同条④の「売主が差替物件を引渡すことができないとき」とは、売主が瑕疵のない会員権を「引渡」することができる場合において「引渡」できないとき又はおよそ瑕疵のない会員権の「引渡」をすることができないときの意味であると解すべきであり、原告の右の主張は失当である。

そして、同条①の「瑕疵」の意味を以上のように解し、原告主張のように限定的に解釈しないからといって、実質的にも本件で当事者間にことさら不当な結果を招くこともないというべきである。けだし、ゴルフ会員権の売買契約締結後にゴルフ場経営会社により和議申請がされたことにより当分の間名義書換が停止されたということは、契約当事者双方の責めに帰すべからざる事由により売主の買主に対する名義変更をしてゴルフ会員権者としての権利義務を移転する債務が当分の間履行不能に帰したということであるから、もし約款一〇条の適用がなければ、元々講学上いわゆる危険負担の問題として扱われたはずである。ところで、ゴルフ会員権は、会員のゴルフ場経営会社に対する、ゴルフ場におけるプレー権、預託金返還請求権等の権利と年会費支払等の義務の混在した契約上の地位であるから、その売買に特定物に関する物権の設定、移転に係る民法五三四条が適用される余地はなく、民法五三六条一項によりいわゆる債務者主義の適用を受ける結果、売主は本来は代金債権を当分の間行使し得ないという立場に置かれたはずである。この場合に約款の適用により買主に契約解除権が与えられたからといって、民法の定める原則と大きな乖離はなく、特に不当視されるべき謂われはないからである。

6  なお、〈証拠省略〉によれば、約款策定当時までにゴルフ場経営会社が倒産した例が多くはなかったため、平成元年の当初約款作成時においても平成八年の約款改正時においても、約款策定の作業の際にゴルフ場経営会社倒産の場面を直接明示して議論がされたことはなかったこと、そのためもあって、同協同組合に加盟するゴルフ会員権取引業者の中にはゴルフ場経営会社の倒産は約款一〇条の瑕疵に該当しないと考える者が相当数あること、訴外会社などが倒産した際に買主がそのまま約定代金を支払って会員券を引きとった二、三の例があることが認められる。

しかし、他方、甲第一〇号証によれば、約款作成作業当時、数少ないとはいえ既にゴルフ場倒産の事例があり、約款策定者らにはそれらの事例はよく知られていたことが認められ、この事実と対比すると、たとえ意識的、明示的にゴルフ場経営会社の倒産の場面について議論がされなかったからといって、約款がこのような場面を一切念頭に置いていなかったといって通用する話ではなく、また、一定数の加盟業者が同一の認識をしていることを理由に、約款の文理に反してまでゴルフ場経営会社の倒産による名義変更の不能状態が瑕疵に該当しないというには無理があるというほかはない。まして、二、三の例により前記の解釈を動かすには足りないというべきである。

7  ところで、本件においては訴外会社の経営するノーザンカントリークラブについては一般的にゴルフ会員権の名義書換が停止されたため、差替物件の「引渡」は不可能に帰したのであるから、約款一〇条③の適用はないというべきである。

その上、前記第二の二の認定事実によれば、被告担当者は、訴外会社の和議申請の情報に接して直ちに原告担当者に連絡した上で原告に本件会員券を返送したのであるから、被告のこの一連の行為は他の同等のゴルフ場の会員権などの差替物件引渡の請求を含んでいるといえなくもなく、被告は、約款一〇条③の「請求」をしたと評価することすらも可能である。その場合、原告から被告に対し本件会員券の差替物件として何らのゴルフ会員権の提供もされたことがなかったことは、前記第二の二において認定したとおりである。

8  そして、被告が約款一〇条に基づいて本件契約の解除の意思表示をしたことは前述のとおりであるから、本件契約は有効に解除されたといわなければならない。

四  結論

以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は失当である。

(裁判官 成田喜達)

〈以下省略〉

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